2025/7/24 15:04:14
2025年6月27日、第14期全国人民代表大会常務委員会第16回会議において、新たに改正された「不正競争防止法」(以下、「不競法」という。)が可決され、新不競法は2025年10月15日より施行される。今回の改正は大幅であり、条文の総数が33の条項から41の条項に増やされ、その核心的な目標として、デジタル経済時代における新たな競争の混乱に対処し、プラットフォームの責任を強化し、「内巻式」(不条理な内部競争や内部消耗)競争を抑制し、データ権益の保護などのルールを充実させることである。本稿では、今回の改正における知的財産権に係わる条項について個人的な理解を述べ、同行の皆様や専門家の方々のご教示を仰ぐ計画である。
一、新不競法における知的財産権関連条項
「不正競争防止法」は中国の経済法体系における重要な基礎的法律の一つであり、主に商業道徳及び信義誠実の原則に違反する競争行為を規制するものである。同法により禁止される不正競争行為には、混同惹起行為、商業賄賂、営業秘密を侵害した行為、不正当な懸賞付販売、商業誹謗、インターネット上の不正競争行為など幾つかの種類が含まれる。
「世界知的所有権機関を設立する条約」第2条で定義されている広義の知的所有権の概念によると、知的所有権は、産業、科学、文芸の分野における知的活動から生ずる権利を包括しており、不正競争の抑止も知的所有権の内容の一つとなっている。そのため、広義の知的所有権から見ると、不正競争防止法は完全に知的所有権関連法律の範疇に帰属することができる。一方、狭義の知的所有権の定義によれば、知的所有権は法律によって排他的専有権が明確に付与されている客体のみに及ぶ。
中国「民法典」第123条は、次の7種類の知的財産権を明確に列挙している。(1)作品;(2)発明、実用新案、意匠;(3)商標;(4)地理的表示;(5)営業秘密;(6)集積回路の回路配置;(7)植物の新品種。
新不競法に規定される幾つかの種類の不正競争行為の中で、第7条(旧不競法第6条)は商標を含む営業標識の混同惹起行為を規定しており、第10条は営業秘密を侵害した行為を規定しており、この2つの条項のみが比較的近接し、または狭義の知的所有権の範疇に帰属することができるが、商業賄賂、不正当な懸賞付販売、商業誹謗、インターネット上の不正競争行為はいずれも「民法典」に規定する7種類の知的財産権と直接的な関係がない。従って、狭義の知的所有権から見ると、新不競法において、知的財産権関連法に該当できるのは第7条と第10条しかない。
新不競法の第7条は今回の改正の重点となっており、第10条について改正がなされておらず、また、第7条及び第10条の規定に違反した場合の罰則についても改正がなされていることから、本稿では、新不競法第7条及び罰則に関する改正のみについて簡単に紹介を行う。
二、新不競法第7条の改正について
新不競法第7条の改正は次の2つの面に示されている。一つ目は、第(二)号の文言の記述に変更を加え、「企業名称(略称、屋号などを含む)、社会組織名(略称などを含む)」を「名称(略称、屋号などを含む)」に変えた。この改正は法律条文の表現形式をより簡潔なものにするだけで、改正後の「名称」は改正前の企業、社会組織の名称を指すべきであり、内容的には実質的な変動はない。2つ目は、いくつかの具体的な混同惹起行為を追加したことである。これは今回の改正の重点であり、以下では、具体的に論述を行う。
(一)営業標識の類型の追加
旧不競法第6条の基に、デジタル経済時代に新たに現れ、または注目を集める営業標識の類型が追加され、即ち、第(二)号に「ハンドルネーム」が追加され、第(三)号に「ニューメディアのアカウント名、アプリケーションプログラム名またはアイコン」が追加された。旧不競法第6条の列挙には、「など」の表現が数ヵ所あり、より多くの列挙されていない事項をカバーすることができるようにされていたが、新不競法はこれらの新たな事項を組み入れており、法適用の確実性と利便性に有利である。
法適用において、いかなる「ハンドルネーム」及び「ニューメディアのアカウント名、アプリケーションプログラム名またはアイコン」がすべて新不競法の保護対象となるわけではなく、「一定の影響力がある」標識でなければならず、初めて無断使用が禁止される対象となるに留意すべきである。「一定の影響力がある」ことの判断について、「最高人民法院による「中華人民共和国不正競争防止法」の適用における若干問題に関する解釈」(法釈[2022]9号)第4条は、「一定の影響力がある」標識とは、一定の市場の知名度を有しかつ商品の出所を区別する顕著な特徴を有するものであり、一定の市場の知名度を有するか否かを認定するにあたり、中国国内の関連公衆における周知度、商品販売の期間、区域、額及び対象、宣伝の継続期間、程度及び地域範囲、標識の保護状況等の要素を総合的に考慮しなければならないと規定されている。
(二)営業標識と企業名称称との抵触に関する新規規定の追加
新たに追加された第2項では、他者の登録商標、未登録の周知商標を企業名称における屋号として使用する行為が、第1項第(四)号に規定する混同惹起行為に該当することが明確に列挙されている。これは典型的な「有名ブランド便乗」行為であり、この行為について、「商標法」第58条及び法釈[2022]9号第13条第(二)号のいずれにも規定されている。今回の改正は、このような行為をそのまま新不競法に示し、新設内容とは言えないが、新不競法の適用を容易にするばかりでなく、裁判の統一性の維持にも有利である。
同項の適用について、以下の幾つかの点に留意すべきである。
第一に、ここに規定されているのは、「他者の登録商標、未登録の周知商標」を企業名称における屋号として使用することであり、未登録の非周知商標はこれに該当しない。このような登録商標に対する保護の拡大は、たとえ特定の商標が未登録であっても、市場経営活動において既に使用を通じて一定の知名度と商業価値を蓄積してある場合、他者が無断で模倣?混同惹起行為を行うことを禁止し、これに違反すれば、不正競争行為を構成することを意味している。
第二に、ここにいう「他者の登録商標、未登録の周知商標」を無断で企業名称における屋号として使用することは、客観的に、「他者の商品であるか、または他者と特定の関連性があるかと誤認を生じさせる」程度に達した場合に限り、混同惹起行為を構成するとされている。
第三に、たとえ企業名称の登録が他者の登録商標、未登録の周知商標よりも早期のものであっても、企業名称の使用も信義誠実の原則を堅持しなければならず、名称に含まれる他者の登録商標、未登録の周知商標を故意に目立つように使用して、公衆の誤認を惹起させてはならない。
(三)検索キーワードの違反使用行為に関する新規規定の追加
新たに追加された第2項では、検索キーワードの違反使用行為が列挙され、即ち、「他者の商品名、企業名称(略称、屋号等を含む)、登録商標、未登録の周知商標等を検索キーワードとして設定し、他者の商品であるか、または他者と特定の関連性があるかと誤認を生じさせる」行為が、混同惹起行為であると明確に定義されている。
電子商取引環境において、事業者が検索キーワードを違反使用することでインターネット上の「有名ブランド便乗」をするのがしばしばである。近年、多くの検索エンジンやECプラットフォームは入札型検索順位サービスを提供している。事業者はプラットフォームに対し入札型検索順位サービスを購入し、事業者はキーワードとそのプロモーション情報とを結び付ける。公衆は該キーワードにより関連情報を検索すると、事業者のプロモーション情報は検索結果の中で、ランキングの比較的上位に表示され、これによって、事業者のPR宣伝効果が高まる。これは市場行為の一種であり、元々は特に非難されるべき理由がない。しかし、一部の事業者は人気を獲得するために、他者の一定の影響力がある商品名、企業名称、登録商標、未登録の周知商標などの営業標識を自社のプロモーション情報のキーワードとして設定する。一部の事業者は自社の検索結果リンクのタイトルやウェブページに直接他者の上記キーワードを使用し、このような行為は、キーワードの「可視使用」という。「可視使用」は公衆に誤認を生じさせやすく、新不競法第7条第2項で明確に禁止されている行為に該当している。
「可視使用」に対応しているのは「不可視使用」である。いわゆるキーワードの「不可視使用」とは、事業者が入札型検索順位サービスにおいて他者の営業標識を自社のプロモーション情報のキーワードとして設定しながらも、検索結果リンクのタイトルやウェブページに該キーワードを明示せず、その事業者のプロモーション情報が検索結果の上位位置に表示されることをいう。司法界では、キーワードの「不可視使用」が不正競争行為を構成するか否かについてかつて見解の対立があった。
例として、「海亮案」に係わる二審判決((2020)浙民終463号)は、係争キーワードの「不可視使用」が相手方の情報表示を妨害しておらず、公衆の誤認も惹起していないため、不正競争行為を構成していないとしたが、同案件の再審判決((2022)最高法民再131号)は、許可を得ずに無断で競合他社の営業標識をキーワードとして設定して使用する行為は、たとえ「不可視使用」であっても、同様に不正競争行為を構成しているとした。その理由として、このような行為は信義誠実の原則及び商業道徳の準則に違反し、競合他社の合法的権益を侵害するばかりでなく、正常なインターネット競争秩序を乱し、消費者の権益及び社会的公共利益にも損害を与え、不正競争防止法第2条第2項に規定する不正競争行為に該当し、上記法律規定に基づいて規制されるべきである。
新不競法第7条第2項は、キーワードの「可視使用」のみが混同惹起行為の構成要件を満たし、「不可視使用」は「他者の商品であるか、または他者と特定の関連性があるかと誤認を生じさせる」要件を欠くため、同条項に規定する混同惹起行為を構成していない。新不競法の施行後、人民法院が依然として第2条第2項の規定に基づき、キーワードの「不可視使用」を不正競争行為として認定するか否かはまだ知り得ない。今後の動向に注目して待っている。
(四)混同惹起行為の実施の幇助に関する新規規定の追加
追加された第3項は、幇助行為も混同惹起行為を構成し得ると規定されている。同項規定は、法釈[2022]9号第15条の規定に由来しているはずであり、ここでは、故意をもって他者に、混同惹起行為の実施のために、保管、輸送、郵送、印刷、隠匿、経営場所等の便利な条件を提供する行為を、「民法典」第1169条第1項に対応させ、権利侵害の教唆、幇助の規定に基づいて扱うことを要求している。これは、旧不競法には、混同惹起行為の実施の帮助に関する規定がおかれていなかった状況下の応急的な対処策である。新不競法第7条第3項は、混同惹起行為の実施の帮助行為を不正競争行為であると明確に規定し、法の不備を補完し、新不競法の実効的かつ正確な適用を促進するものである。
三、知的財産権条項における関連罰則の改正
新不競法第22条第3項では、不正競争行為(混同惹起行為を含む)による損害賠償額の算定方法について調整され、旧不競法における「まず被害者の権利侵害による損失を算定し、次いで権利侵害者が得た利益を算定する」という方法が、「両者につき前後順序がつかない」ものに調整された。この調整により、当事者は自分に有利な賠償額の算定方法を選択することが可能となり、紛争処理の柔軟性が高まった。
新不競法第23条第1項では、混同惹起行為を実施した後、他者の混同惹起行為の実施を援助する行為も追加され、混同惹起行為の実施と並列して、同じ行政処罰を受けることとなった。同条項では、「営業許可証の取消し」の前に「併せて」の文字が追加され、罰則が従来の情状が重大な場合の単独での営業許可証の取り消しから、「併せて営業許可証の取消し」に改められ、処罰の力度が強化された。
新不競法第23条第2項では、第7条に規定する違法商品を販売した場合には、混同惹起行為を実施した規定に従って処罰し、情況を知らない販売者が商品の合法的出所を立証できる場合、行政処罰を科さないことが明確されている。同条項の規定は法釈[2022]9号第14条に由来するものである。今回の改正により、同規定の法律位階を高め、ルールの安定性を強化したと同時に、法適用も容易にした。
新不競法第26条では、営業秘密の侵害に対する罰則に係わる。前述のとおり、今回の改正では、営業秘密の侵害に関する規定について改正がなされていないが、当該行為に科す権利侵害責任が強化され、情状が重大である場合の営業秘密の侵害行為に対する罰金の下限額が50万元から100万元に引き上げられた。
四、結語
以上、新たに改正された「不正競争防止法」は、知的財産権の保護を含む多くの点において重要な改正がなされており、保護範囲を拡大し、不正競争行為の定義を明確化し、処罰の力度を強化するとともに、公正な競争の市場環境を維持し、知的財産権を保護するためにより一層強固な法的保障を提供している。