2026/9/30 14:19:47
2026年9月7日、最高人民法院は『人工知能関連紛争事件法的審理に関する意見』(以下、『意見』という)を公布した。本意見は5つの部分?全24条から成り、人工知能の社会実装において生じる様々な具体的法律問題に対応している。人工知能技術の急速な進展は、知的成果を保護対象とする知的財産権制度と密接に関連している。『意見』は、人工知能関連紛争事件の審理を規範化すると同時に、人工知能に起因する多種多様な知的財産権上の課題を明確化した。本稿では知的財産権に関連する規定に焦点を当て、著作権、特許、データ保護の3つの観点から『意見』の関連規定と制度的ロジックを整理する。
一、著作権の観点
1.1 著作権侵害責任の配分
『意見』第3条は、人工知能による権利侵害責任の帰責原則として通常は過失責任主義が適用されるべきであることを強調している。また第12条では、人工知能生成コンテンツが他人の著作権を侵害した場合、侵害責任は開発者、提供者、使用者の3つの主体に及ぶ可能性があり、当該人工知能サービス自体のタイプ?特徴、訓練データの出所、各主体の関与度、講じた必要措置および利得状況に基づき、これら3主体の責任を合理的に認定すべきと規定している。第3条の帰責原則と併せて見ると、最高人民法院の見解は、人工知能による著作権侵害事件においては案件の具体的事情を総合して各主体の責任配分を確定すべきであり、人工知能サービスを直接利用した一方、あるいはバックエンドで開発?サービス提供を行った一方に直接帰責すべきではないというものである。
1.2 使用者の侵害責任の認定基準
『意見』第12条は、使用者が先行著作物の存在を知り、または知るべきであったにもかかわらず、人工知能を利用して先行著作物と実質的に類似する著作物を生成し、かつ正当な抗弁理由がない場合において、権利者が侵害責任の追求を求めた場合、人民法院はこれを支持すべきと明確にしている。この基準は、使用者の主観的過失と人工知能産出という客観的結果を組み合わせたものではあるが、依然として従来の著作権法における「依拠性+実質的類似性」を中核としており、侵害責任の認定基準に実質的な変化はない。
1.3 オープンソースソフトウェアの責任免除
人工知能産業がオープンソースエコシステムに強く依存している実情に鑑み、『意見』第13条は、オープンソースソフトウェアの開発者、提供者および後続の開発者、提供者の侵害責任の認定にあたっては、オープンソースライセンスのタイプ、権利制限の具体的内容、セキュリティコンプライアンス措置、情報開示の程度などの要素を総合的に考慮し、法に基づき適切な責任免除を与えるべきと規定している。特に、人工知能の研究開発に必要なコードモジュールの一部を無償のオープンソース形式で提供し、かつ当該モジュールの機能とセキュリティリスクを公開?披露している主体については、他人が当該モジュールを使用したことで侵害紛争が生じた際、全案件の事実に基づき、オープンソースソフトウェア開発者?提供者は侵害責任を負わないと認定され得る。これは、イノベーションの保護と権利者の権利維持とのバランスを保ち、萎縮効果によるオープンソースコミュニティの発達阻害を防ぐことに寄与する。
1.4 データセットの編集著作物としての保護
『意見』第16条は、著作権保護をデータ領域へと拡張している。編集著作物を構成する、あるいはその他の著作物成立要件を満たすデータおよびデータセットについては、著作権法に基づき保護されるべきとしている。これは、データセットの選択および配列に創作性が認められる場合、個々のデータ自体が保護対象であるか否かを問わず、編集著作物として著作権法上の保護を受けられることを意味し、これにより、データ要素への創作的投資に対して著作権法による保護経路を提供するものである。
二、特許の観点
2.1 技術案の客体適格性
『意見』第14条は、人工知能による発明創造が特許法上の客体に該当するか否かの争点を解決することを目的としている。確立された基準は以下の通りである。人工知能関連の発明創造が自然法則を利用した技術的手段を採用し、技術的課題を解決し、自然法則に適合した技術的効果を奏する場合、特許法上の保護客体と認定されるべきである。ただし、法律や社会公徳に違反し、または公共の利益を損なうものを除く。この表現は、中国特許法における技術案の保護に関する従来の要件を踏襲したものであり、純粋な智的活動のルール、数学的方法、ビジネス方法を特許客体から排除しつつ、人工知能アルゴリズムとハードウェア?プロセスとの結合による技術的手段に対して特許性の余地を残している。
2.2 自然人発明者の創作的貢献基準
人工知能の発明への関与は、発明者制度に直接的な衝撃を与えている。『意見』第14条は、自然人の創作的貢献を中心とする立場を採用している。自然人が人工知能を使用して発明創造を完成させ、発明創造の実質的特徴に対して創作的貢献をなした場合、当該自然人を発明者と認定すべきとしている。言い換えれば、人工知能は補助工具に過ぎず、発明者の地位は依然として技術案の実質的特徴に創作的貢献をなした自然人に帰属する。自然人がデータの入力、パラメータの調整、機械的操作を行ったにとどまり、発明の実質的特徴に創作的貢献をなしていない場合は、発明者と認定することはできない。この基準は、発明者は自然人に限られるという基本原理を維持すると同時に、人工知能時代における特許発明者の認定ルールに根拠を提供するものである。
2.3 開示の充分性
人工知能特許の明細書がアルゴリズムのブラックボックス化を理由に開示を回避する問題を防止するため、『意見』第14条は、人工知能関連特許の明細書における技術案の記載が、当業者が当該発明を実施できる程度に達している場合、開示の充分性という特許要件を満たしていると認定すべきと規定している。これは、権利者がモデルパラメータが営業秘密に該当することを理由に必要な技術内容の開示を拒否することはできず、明細書は当業者が当該技術案を実施できる程度に達していなければならず、さもなければ、特許法第26条第3項が定める開示の充分性を満たさないことを意味する。
2.4 技術契約における違約責任の慎重な認定
『意見』第15条は、人工知能関連の技術契約紛争について規定しており、技術開発、譲渡、ライセンス、コンサルティング、サービスに関する契約紛争の審理にあたっては、契約の定めに従い、人工知能技術の研究開発の特徴、技術開発当事者が合理的努力を尽くしたか否か等の状況を十分に考慮して契約違反責任を認定すべきとしている。人工知能の研究開発には本質的に探索性と不確実性が伴うことに鑑み、司法判断においては慎重な姿勢を保持し、技術開発の失敗を単純に違約と認定すべきではないとし、技術イノベーションを推奨する政策的志向を示している。
三、データ保護の観点
3.1 公開済み個人情報の学習利用の境界
学習データのコンプライアンスは、人工知能産業の発展における中核的な法律問題である。『意見』第6条は、人工知能モデルの学習のため、合理的な範囲内で本人が自ら公開した情報またはその他の合法的に公開された個人情報を処理し、かつ本人が明示的に拒否していない場合、原則として個人情報の権利侵害とは認定しないと規定している。ただし、個人の権利利益に重大な影響を与える場合は、法に基づき本人の同意を得なければならない。この規定は、個人情報の権利保護と学習コンプライアンスコストの削減との間のバランスを追求したものであり、公開済み情報は原則としてモデル学習に使用できるが、重大な影響が生じるケースでは依然として本人の同意が必要となる。
3.2 データ権利利益の階層的保護体系
『意見』第16条は、多層的なデータ権利利益保護のフレームワークを構築している。第一に、人工知能開発者が収集?生成、派生創造、譲受、ライセンス許諾等の方法により合法的にデータを取得し、相応のデータ権利利益を有する場合、人民法院はこれを保護する。第二に、編集著作物を構成する、あるいはその他の著作物成立要件を満たすデータおよびデータセットは、著作権法により保護される。第三に、営業秘密を構成するデータおよびデータセットは、不正競争防止法により保護される。第四に、営業秘密を構成しないデータおよびデータセットであっても、被疑権利侵害行為が不正競争防止法第13条の規定に違反する場合は、法に基づき責任を負うべきである。同条の規定は、データ権利利益、著作権から、営業秘密、一般条項に至る4層の構造を確立し、異なるデータであってもそれぞれ適切な請求権規範の基礎を見出せるようにしている。
3.3 データの独占および敵対的データセキュリティ
『意見』は同時に、データの負の側面の抑制にも注力している。第16条は、事業者がデータやアルゴリズム等の手段を利用して独占協定を締結し、あるいは市場優位性の乱用行為等を行った場合、法に基づき相応の責任を負うと規定している。また、虚偽データの作出、悪意あるデータラベリング、敵対的サンプル攻撃等の技術的手段を用いて人工知能の運用セキュリティを損なった場合も、同様に法に基づき責任を負う。前者はデータ要素市場の競争秩序を維持するものであり、後者はデータの品質とモデル運用の信頼性を司法保護の範囲に組み込むものである。この規定は、第10条のビッグデータによる価格差別の規制、第20条のデータ関連の刑事責任規定と相互に連動し、データセキュリティ分野における司法の防衛線を共同で構築している。
3.4 訴訟におけるデータ提出義務と証拠ルール
『意見』第17条は、文書?電子データ等の証拠を所持?管理する当事者が正当な理由なく提出を拒否した場合、相手方が主張する当該証拠の内容が所持者に不利であるとの主張を人民法院は認めることができると明確にしている。第18条では、人工知能証拠の特殊性に対応し、ビッグデータ分析レポート類の証拠については元データの出所、クレンジングルール、分析手法の科学性を重点的に審査し、ブロックチェーンタイムスタンプ類の証拠についてはチェーン記録前のデータ真正性および技術プラットフォームの信頼性を重点的に審査することを求めている。当事者が人工知能生成コンテンツを権利侵害の証拠として提出する場合、プロンプトの設計、類似度、重複テストの一貫性、モデルの学習、アルゴリズム設計、フィルタリングメカニズム等の要素を総合的に考慮すべきとしている。第19条は、人工知能を利用して生成?合成コンテンツの識別標識を改ざんすること、選択的な結果提示を行うこと、あるいは敵対的妨害を行って虚偽の証拠を取得することを禁止している。これらの規定は、手続面において人工知能時代のアルゴリズムブラックボックスがもたらす事実解明の困難さを軽減するものである。
総じて、個別立法が未だ制定されていない背景において、本『意見』は人工知能関連の知的財産権紛争事件の審理および産業界のコンプライアンス実務に対して明確な司法ガイドラインを提供するものであり、知財実務家にとって大いに学習?研究する価値がある。






