2024/2/7 15:18:01
三友のクライアント:Sensirion AG
審理機関:最高人民法院
裁判結果:無効決定の取消
案件の概要:
ロジャー?エンゲルは「コンパクトで低コストの粒子センサ」に係る発明特許を持っており、蘇州貝昂科学技術有限公司(以下、蘇州貝昂という。)の製品に対して権利侵害訴訟を提起した。蘇州貝昂が該特許に対する無効審判請求手続において、ロジャー?エンゲルの代理弁護士は権利請求の範囲に対して間違った限定を行い、国家知識産権局(国知局という。)は権利請求の範囲に対する間違った限定に基づいて、特許権の有効性を維持する旨宣告した。ここまで、特許の有効性が維持されたが、保護範囲が全く異なるものとなり、権利行使することができないものとなった。その後、ロジャー?エンゲルは該特許権をSensirion AGに移転した。
Sensirion AGは当案件の行政訴訟の代理を三友に依頼した。三友は行政訴訟を代理することによって、クライアントSensirion AGのために、権利請求の範囲に対して間違った限定が行われた無効決定を取消し、後の権利行使の可能性を勝ち取った。
審理の経緯:
2017年9月5日、蘇州貝昂は本件特許に対して無効審判を請求した。審理中、ロジャー?エンゲルの代理弁護士は、請求項1の「ビーム」は平行なレーザ光であると弁駁した。これに基づき、国知局は第35722号の無効決定を行い、特許権の有効性を維持した。
2018年10月、ロジャー?エンゲルは北京知識産権法院(北知院という。)に行政訴訟を提起したとともに、特許権をSensirion AGに移転した。Sensirion AGは案件の代理事務所を三友に変更した。
三友の弁護士は資料を調べて証拠を収集し、当業界の専門家に証言を依頼するなどして、「ビーム」が平行光でないことを確認した。北知院は2020年10月20日に、(2018) 京 73 行初 11078 号の行政判決を行い、第35722号の無効決定を取消した。
蘇州貝昂は一審判決に不服し、最高人民法院知識産権法廷に上訴した。最高人民法院知識産権法廷は2022年9月に(2021)最高法知行终338号の判決を行い、一審判決を維持した。
争点:
当案件の争点は以下の二点にある。
1、権利請求の範囲に記載された「ビーム」が客観的に「平行光」であるか否か;
2、特許権者が無効審判手続き中に保護範囲が「平行光」であると主張したことがあり、これにより特許権が維持されたが、その後の訴訟手続き中に、保護範囲が「平行光」でないと主張したことは、禁反言の原則に背いたか否か。
争点その1:
明細書では、ビームの具体的例示としては、「コリメート/フォーカスレーザ」となっている。一般大衆のイメージでは、レーザが平行光である。そのために、無効手続き中、合議体は特許権者による「平行光」の主張を認めた。
しかし、客観的な事実はそうではない。一審手続き中、三友の弁護士は関連分野の教科書などの資料をたくさん収集し、様々な手段を講じて、当業界の技術専門家に証言を依頼し、レーザが平行光でないことを立証した。いわゆる「コリメート/フォーカスレーザ」とは、異なるレーザビームではなく、同一レーザビームの異なる状態を指すため、「平行光」の言い方は客観的事実に合致せず、第35722号の無効決定には事実認定の錯誤があったと弁駁した。
争点その2:
禁反言の原則とは、特許権者が特許審査(特許出願の審査過程または特許権が付与された後の無効、異議、再審手続きを含む)過程において、法定の権利付与要件を満たすために権利請求の範囲を減縮(制限的な補正または解釈など)した場合、特許権を主張する際に、該減縮によって放棄された内容を特許権の保護範囲に入れてはならないことをいう。
まず、禁反言の原則は文字通り、前回の権利確定手続きによるその後の権利確定手続きに対する規制ではなく、権利確定過程における意見陳述による権利行使過程に対する規制のことである。二審判決で指摘されたように、特許授権確定手続中に、特許権者の意見陳述について、当業者の合理的な解釈の範疇に属するか否かを考慮しなければならない。特許権者の意見陳述が変化したか否かも、権利請求の範囲の合理的な解釈に影響を与えるべきではない。
次に、当案件において、明細書における例示は「コリメート/フォーカスレーザ」である。前述のように、「コリメート/フォーカスレーザ」とは、「コリメートレーザを用いてもよいし、フォーカスレーザを用いてもよい」のことではなく、「レーザビームのコリメートまたはフォーカス状態を用いてもよい」ことを意味するため、「コリメート」が「平行」であると考えるとしても、請求項における「ビーム」を「平行光」と解釈するのも、権利請求の範囲を限定?減縮するのではなく、元の保護範囲とは全く異なる保護範囲を改めて定義したことである。この観点から言えば、禁反言の原則にいう「権利請求の範囲を限定?減縮した」情況に該当しない。
したがって、禁反言の原則は当案件に適用されない。
典型的な意義:
特許権者は、特許出願及び無効手続において、権利を取得するために、明細書に記載された内容に対して客観的事実に背いた解釈を主張した。該特許が当該客観的事実に背いた解釈に基づいて権利付与された、または有効性が維持されたとしても、その後の手続において、特許権者はなお明細書の記載に基づいて、前記客観的事実に背いた意見を覆すことができ、客観的な事実に合致した上で明細書に記載された技術案を解釈できる。